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東京高等裁判所 昭和43年(ラ)496号 決定

抗告人 堀内美代子

被抗告人 有限会社八丁雅 外二名

主文

本件抗告を却下する。

理由

(本件抗告の要旨)

本件抗告の要旨は、原決定中別紙〈省略〉目録記載の(二)の物件に関する部分を取消す、右物件についての保全処分申請を却下する、との裁判を求めるというにあり、その理由として主張するところは、次のとおりである。

被抗告人三名から有限会社魚七(以下、魚七という)に対する横浜地方裁判所昭和四三年(フ)第一一号破産申立事件において、同裁判所は、被抗告人らの申請に基づく昭和四三年(モ)第一三六三号破産宣告前の保全処分事件につき、同年六月一一日「右破産申立事件についての裁判があるまで、別紙目録記載の(一)(二)の物件についての被申請人(魚七)の占有を解き、申請人(本件被抗告人)らの委任する執行官に保管させる。執行官は被申請人の営業を妨げないように適当な方法をもつて公示しなければならない。被申請人は右物件の売買・譲渡・質権の設定、占有名義の移転その他一切の処分をしてはならない」旨の保全処分決定をし、被抗告人らは右決定により執行した。

しかし、右保全処分決定の物件中、別紙目録記載(二)の物件は破産債務者魚七の所有でなく、抗告人の所有に属するものである。すなわち、右(二)の物件はもと魚七の所有であつたが、魚七は抗告人に対して負担する元金合計一三〇万円の貸金債務(利息年六分、弁済期昭和四四年一一月二日、ただしそれ以前に不渡りを出し銀行取引を停止されたときは期限の利益を失う約)の担保として右(二)の物件を譲渡担保とし、その所有権および占有権を抗告人に移転し、弁済期到来の場合は右物件をもつて代物弁済とする旨を約した。抗告人は直ちに右物件を魚七にそのまま使わせたところ、魚七はその後不渡りを出し、銀行取引停止となり、期限の利益を失つたが、貸金の弁済をしない。それで、右物件は前記特約により、代物弁済として、完全に抗告人の所有となつた。その後に本件保全処分決定があつたものであるから、抗告人は(二)の物件につき原決定に異議があり、これを不当として排除を求めるため、この抗告に及んだ。

(当裁判所の判断)

破産法一五五条による破産宣告前の保全処分決定に対しても、一般的には、利害関係者は即時抗告をすることができるというべきであるが(破産法一一二条、一五五条四項)、本件のように、破産債務者に対する債権者の申立に基づき、手続法上一応適法に保全処分が執行された場合に、第三者が右保全処分の目的物件につき自己の所有権を主張して効力を争う場合には、民事訴訟法五四九条に準ずる方法により執行の排除を求むべきで、即時抗告によることは許されないと解するのが相当である。

けだし、破産宣告前の保全処分決定は、将来の破産的執行を保全するため、破産管財人が破産財団の占有、管理に着手するまでの間の暫定的措置として、破産財団たるべき財産につき破産債務者の処分を禁止し、有体動産を執行官に保管させ、不動産につき処分禁止の登記をする等の適宜の保全方法を定めるもので、その性質は個別的強制執行の保全たる仮差押仮処分に類似するものである。そして、右保全処分の目的物件が破産財団となるべき破産債務者の所有財産に属するか否かは実体法上の問題であつて、その確定は判決手続によるのが相当であることにかんがみると、本件のように、抗告人が本件(二)の物件につき自己の所有権を主張して保全処分の効力の排除を求めるためには、民事訴訟法五四九条の第三者異議の訴に準じた訴訟によるべきであり(破産法一〇八条参照)、即時抗告は許されないものと解するのが相当である。

よつて本件抗告は不適法として却下すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 川添利起 武藤英一 岡田潤)

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